細胞外マトリックス欠損疾患モデルマウスの作成と新規治療法の開発

Fibulin-4 は、タンデムに配列したcalcium binding EGF-like motif を有する血管壁に存在する細胞外マトリックスである。私たちはFibulin-4遺伝子を血管平滑筋細胞特異的に欠損させて、生後に発症する上行大動脈瘤のマウスモデル(SMKO)を作成した(Circ Res 2010)。 SMKOの血管壁組織病変を経時的に観察したところ、生後1ヶ月で中膜の肥厚と弾性線維の断裂が認められた。大動脈瘤では局所的なアンギオテンシン変換酵素の上昇を認め、血管平滑筋の脱分化とERK1/2 のリン酸化がおこることがわかった。さらにアンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシンII1型受容体拮抗剤でアンギオテンシンシグナルを抑制することで大動脈瘤の発生を防ぐことを見い出した(Sci Transl Med 2013)。しかし大動脈瘤が一旦でき上がると、アンギオテンシンシグナル非依存的に大動脈瘤が維持されることがわかった。現在、大動脈瘤病変における細胞内シグナル伝達系を標的とした新たな治療法を探索している。

マウス皮膚幹細胞の発生、恒常性維持、老化メカニズムの解明

組織幹細胞は、恒常性維持や臓器再生に重要な役割を果たすとともに、近年では、がんや老化との関連性も強く示唆されている。私たちは、組織幹細胞の基礎的特性や制御機構を理解するため、マウス皮膚をモデルとし、研究を行っている。

古典的なモデルにおいて、幹細胞は、活発に分裂するtransit amplifying(TA)細胞を生むことで、自身の細胞分裂頻度を減らし、がん化や老化を防ぐと考えられてきた。しかし私たちは、驚くべきことに、マウス表皮においては、分裂頻度の低い細胞、高い細胞が、独立した幹細胞として働くことを見いだした (Nature Cell Biology 2016)。今後は、同定した幹細胞マーカーや解析ツールを用い、皮膚幹細胞の発生、恒常性維持、老化のメカニズムを、細胞・分子レベルで解析する。幹細胞制御に関わる作用機序や原因因子の解明は、再生医療への応用や、皮膚のがん化や老化の予防・治療へとつながることが期待される。

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弾性線維形成の分子メカニズムの解明

弾性線維は血管壁や皮膚、肺、膣壁などに広く分布し、伸展・収縮性を司る。私たちは細胞外マトリックスFibulin ファミリーメンバーであるFibulin-5 が弾性線維の主要成分であるエラスチンや、エラスチン架橋酵素、弾性線維の足場となるマイクロフィブリルと結合し、弾性線維の形成に必須であることを見い出した (Nature 2002Nature Genetics 2004Mol Cell Biol 2007) 。Fibulin-5 が欠損したマウスは皮膚弛緩や肺気腫様の病態を呈し、ヒトではFibulin-5遺伝子異常が常染色体劣性皮膚弛緩症(ARCL1A)を起こすことが明らかになった。現在、Fibulin-5 が弾性線維を形成する分子機序と弾性線維の再生方法を研究している。

細胞外マトリックスによる細胞外環境の調節機構

Fibulin-5 (F5)が欠損したマウス(右図:中央)は膣壁で弾性線維の形成異常と、フィブロネクチン (FN)-インテグリンβ1を介したマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)活性の増加を認め、骨盤臓器脱を発症した (Am J Pathol 2007, J Clin Invst 2011, PloS One 2013)。MMP-9 を欠損させると骨盤臓器脱の発症は60%以上抑えられた。一方インテグリン と結合ができないFibulin-5 を発現するマウス(右図:右)は弾性線維の異常はないが、 MMP-9活性の増加を認め、架橋酵素阻害剤で弾性線維の形成を阻害すると、前臨床的な骨盤臓器脱を認めた。現在骨盤臓器脱に関わるプロテアーゼの検索を続けている。